うらがみらいぶらり

チラシの裏のアーカイブ

デオコおじさん、あるいは女子高生のクオリア

 ロート製薬の薬用デオドラント「デオコ」が異様なバズり方をして、一般世間は混乱に陥った。そして、全国の精神的女子高生たちはこの偉業をたたえている。

 

dain.cocolog-nifty.com

 この記事をきっかけにデオコは成人男性の間に急速に広まったとされる。各所で使用者の「いい おんなのこ」という書き置きが見つかり、それを見つけた誰かがデオコを買った。追って残されるのは書き置き。まぎれもないパンデミックだ。あまりに急速すぎて、稚拙ないかかでしたかブログですら全容をとらえきれていない様子だ。

 

 というわけで僕も買ってきた。まずは試しやすい制汗剤タイプで真価を見定めることとにした。

 構造としてはキンカンに近い。少し振ってから任意の箇所に塗布するだけ。お手軽である。

 薬液そのものは、多くの証言に見られる通り「ふんわりと甘い香り」で、露骨ではないが人工物と分かる程度のフレグランスである。それ自体に青春とリビドーをくすぐるような魔性は漂っていない。

 そこまで確認したところで自身の肉体に塗布した。ひとまず脇、ついでに肘裏、なんかアクセントにと胸部。全3か所に塗りたくり、服を着直して動向をうかがった。

 

 変化はほどなくして現れた。いつも通りに無心にキーボードを叩いている我が身から、不意に鼻腔をくすぐる香りがただよった――それは一瞬だが、"本能"を揺さぶった。

 予感はあった。人工物のみでは、あの華やぐ匂いを生み出すことは不可能だと。汗、皮脂、よだれ。その他様々な体液とまざりあうことによって、「女」のにほひが生まれるのではないかと。その予感が的中した次第だ。

f:id:wasasula:20190630010244p:plain

効果を実感する筆者(27・美少女ブロガー)

 「自分から女子高生の香りがする」という事実は、かなり自己認知がバグる。さすがに一度使った程度では短時間で終わるものの、どうやらシャンプーを継続して使用すると体全体からその香りがするらしい。それは、文字通り自己改造の類だ。この状態でVRで美少女となれば、確実に自己認知は傾くだろう。

blog.gururimichi.com

 

 一方で、嘆きの声も耳にする。「そんな匂いをかつて人生において嗅いだことがない」と。

honeshabri.hatenablog.com

 「思い出の香り」というものがある。記憶と嗅覚は往々にして接続し得る。汗臭い体育館、ホコリにまみれた資料室、ラーメンのかおりただよう食堂。類似する匂いからありし日の記憶を想起することを「プルースト効果」と呼ぶらしい。その名を知らなくとも、我々はその瞬間に出くわしているはずだ。

 故に、女性接触が虚無の青春を送っていたなら――無情な現実が立ち上がる。

 デオコは図らずも、男たちの過去をえぐり出してしまったのかもしれない。

 

 

 しかし、諦めるにはまだ早いと思う。「天然の女子高生の匂い」は、容易に収穫できる。

 一つはフィールドワークだ。女子高生はそこかしこにいる。今ならタピオカ屋に行けば確実に群がっている。現地に行き、匂いを得る。その瞬間に「あの香り」は記憶野へと格納されるのだ。そうなればこちらのものである。匂いを仮想的な高校時代へインポートさせ、バーチャルなクラスメートの女とのふれあいを創り上げれば、デオコエフェクトの条件は成立する。

 そしてもう一つは、他ならぬデオコを用いた、自身の身体を用いた創作活動だ。すなわち、自分の香りから漂う、デオコと身体分泌物の混合物質。そこから漂う匂いそのものを「女子高生の香り」と積極的に"誤認"させるのだ。知らなくてもいい。「これが、女子高生だ」という強い信仰が現実を変える。

 とにかく、どんなところからでもいいので、なにか具体的なサンプルを脳裏に焼き付けることが肝要だ。一つのサンプルからは、無数のフィクションを創造できるのだ。

wasasula.hatenablog.com

 

 こうしたことを考えていると、僕が自分の体から認知しているのは、「女子高生の香り」ではなく「女子高生のクオリア」なのではないかと思う。

 女子高生というイメージから連想する、「女子高生からただようあの感じの匂い」は、まぎれもなく学生時代の記憶にもとづくものではない。その他の生活と、想像上の光景から、「経験された質感」として創造したのではないか。事実ではないが、実質的な真実。バーチャルな記憶が、自分にとっての「女子高生のクオリア」なのではないか。

 女子高生とはなにか、その匂いとはなにか――我々は、デオコを通じて、ひとつの深淵を覗いているのかもしれない。