うらがみらいぶらり

チラシの裏のアーカイブ

スマブラ化するVTuber ~虚実混交の大乱闘会場~

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 ごあいさつにかえて。

 

 まことに恥ずかしながら、VTuberについて詳しく知り、ハマったのはここ1ヶ月のことである。

 最初は「Viveを買ったのだし、もうバーチャルYouTuberも他人事じゃないぞ」という謎の自負心から学習を始めた。結果、いまやVTuberは文字通り「生活の中に溶け込んで」いる。特に好きなVTuberはシロちゃんと猫宮ひなたと月ノ美兎、それとアマリリス組箱推し、あとマシーナリーとも子である。職場の同僚にも「急速に詳しくなってやがる…」と言われた始末だ。

 しかしながら、たった1ヶ月だというのに、この界隈はとんでもない速度でイベントが発生している。ボーカロイド界隈が3年だか5年だかでたどった道を、この界隈は1年にも満たない速度で歩んでいるように感じる。インターネットは加速する。しかし、ここ最近のインターネットは、まるで星の一生を早回しで見ているような心地になる。

 それにつけても興味深いのは、るつぼともいえるVTuber界隈の多様性、ともすればスマブラ感あふれるカオスである。

 今日はそのあたりをざっくり書こうと思う。なにせ、確たることの言えない世界だ。バーチャルの世界は水のように、絶えず流れ、変化していく。そもそも、この世界の100分の1も知らない以上、なにもくわしいことは言えないのである。

 

1. リアルの血が流れるフィクション

 パイオニアといえばキズナアイ、そして彼女に追随するようにミライアカリ、電脳少女シロ、輝夜月の「四天王*1」がフロントラインに立ち、さらに富士葵やときのそら、のらきゃっとといった古株が名を連ねる――VTuberに関して調べると、おおむねそのような歴史に行き着くだろう。

 いわば「VTuber初期筆頭」ともいえる彼らに共通するのは、「架空の設定を中身がロールプレイする」というスタイルである。キズナアイの「ポンコツAI」などのように、あらかじめ設定された役割を演者が遂行することで、彼らのキャラクターは成立している。

 しかしながら、このロールプレイは現在は柔軟なものとして捉えられている。ともすれば、当初のキャラクター設定からの逸脱も許容されている。

 代表例はシロだろうか。これは他ならぬ公式でネタにされている。

www.youtube.com

 当初は「清楚な美少女」として、「夢は武道館でライブ」という微笑ましいアイドルとして売り出した彼女であるが、気がつけばガチ寄りなゲームプレイと、「サイコパス」「戦闘AI」とあだ名されるほどのアレな発言が、すっかりキャラクターに染み渡っている。「かわいらしくもデンジャラスな少女」が現在のイメージだろうか。

 シロのキャラクター性は変遷しているが、注目すべきは、その変遷が好意的に受け入れられていることだろう。

 現在のシロは、彼女の「中身」の影響を相当に受けている。設定がまるで変わっているとも言えるだろう。だが、彼女がオーディエンスからリジェクトされることはなく、ついには『禍つヴァールハイト』という新規スマホゲータイトルのキャンペーンガールに抜擢されるに至っている。後付ともいえるデンジャラスな設定が受け、彼女の魅力として受容され、ひいては「電脳少女シロのファクター」として認知された結果だろう。

 と、ここまで書いて「そんなん現実のアイドルでもよくあるやろ」と思われる方もいるだろう。そう、普遍のキャラクターとしては特殊ではあるが、現実の一個人としてはめずらしくない。つまるところ、VTuberはリアルの血が流れたフィクションなのである。

 ここ最近で「最近のVTuberはダメだ、昔は作られたキャラクターを守っていて~」などという老害ムーブ発言が見られるようになったが、とんでもない。VTuberははじめからキャラクターを厳守していない。フィクション的設定を前提としつつも、中身というリアルによって二次創作することが受容されている、アクロバティックな存在なのである。

 このような様相を「リアルとフィクションのはざまに立つ」と表現したくなるし、これはあながち間違いではない。しかし、初期のVTuberたちと、直近で増加してきたVTuberたちでは、いささか意味合いが異なる。

 

2. 「人間の二次創作」としての月ノ美兎

 3DアバターVTuberが隆盛を極めている中、彗星のごとく殴り込み、流星群のように増加の一途をたどっているのが、2Dアバター系VTuber*2である。とりわけ、「にじさんじ」ファミリーが著名であろう。

 特に月ノ美兎は、わずか3ヶ月で上記の初期メンツに匹敵するチャンネル登録数を記録し、個人イベントを開催、先日開催されたE-Sportsイベント『Rage』では、VTuberゲストとしてわざわざ新規作成3Dアバターをひっさげて参戦したほどだ。間違いなく「現在進行系で人気の存在」といえよう。

 しかしながら、彼女の人気は「設定のロールプレイ」によって得られたものではなく、むしろ逆――「リアルの人格によって上書きされたフィクションの設定」が功を奏した結果、と見るのが筋であろう。

 彼女にはダイジェスト動画が存在するので、そこで全貌を知るのが手っ取り早い。生配信系は後追いが困難な存在でもある。

www.youtube.com

 配信前は「清楚でツンデレな学級委員長」という設定が公開されていたにも関わらず、初回から『ムカデ人間』を話題に出し、そのクソサブカルぶりを惜しげもなく見せつけた。その後も、ヨーロッパ企画のブラウザゲー実況というキマった特徴的な配信や、「小学校の頃は雑草を食べていた」といった過去の奇行が雪崩のごとく公開され、「委員長とはなんだったのか」と言わんばかりの暴れっぷりである。

 委員長の場合、中身が完全に「主」となっている。にも関わらず、彼女はいまやバーチャル世界のアイドルそのものである。ここから見えてくるのは「ロールプレイの精度」よりも「中身のおもしろさ」が、本質的には求められているということであろう。

 このあたりは非常におもしろいところで、二次元オタクな人々であってもこの「ナマモノ」に関心を示し、設定との差分を不問にしているところは、VTuberという存在の本質であると思える。配信系文化の直近の例といえばニコ生だが、現在多くのVTuberが編集動画からライブ配信を主戦場としているあたり、二者が同じ血統にあることを示しているといえるだろう。

 ニコ生と少し異なるのは、こうした「ライブでの出来事」が、もともと用意された「フィクションとしてのVTuber」へフィードバックされ、随時アップデートを続けている点だろうか。

 月ノ美兎の場合、「清楚な委員長」を侵食する「クソザコ」「サブカル」「オタク」「意外と口調がラフ」「雑草を食べる」「部屋が汚い」「英語がわからない」「ラブプラスをプレイしたことがある」などの「新規設定」以外にも、樋口楓とはじめとした「他のライバーとの関係性」も「月ノ美兎というキャラクター」へ取り込まれ、まるでアニメ実況のように日々変容している。そのアップデートされた設定は、彼女のファンアートや同人誌へ反映されるが、そこで描かれるのは中身ではなく、「月ノ美兎というキャラクター」であろう。

 このようなあり方は、変遷する電脳少女シロよりも奇妙に映る。そして、多くの人がこの奇妙な事象の言語化に取り組んでいる。僕個人は、このような事象は「人間の二次創作」ではないかと捉えている。「月ノ美兎の中身」という原作を、「清楚な委員長・月ノ美兎」によって解釈し直し、創作する。フィクションが「主」にある初期VTuberとは異なるベクトルだが、LIVE感のともなう二次創作であることはたしかであり、その即興性に惹かれるのではないだろうか。

 

3. ジェンダーフリー化するおじさん

 いわば「内外の不一致」が人気を生んだともとれる月ノ美兎だが、そのさらに前に、より大きな「内外の不一致」を抱えながらも名を馳せた人がいた。「バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん」こと、ねこます氏。今や市場にあふれつつある「おじさん美少女」のはしりである。

 彼については以下に詳しいので多くは語らない。

nyalra.hatenablog.com

 重要なのは、VTuber界において「おじさんである」ことは、まるでディスアドバンテージにならないということである。見た目が美少女であるならば、あとは中身さえおもしろければ、SUCCESSが待っているのである。

 ここで思い出すのは、『人は見た目が9割』という言葉、もとい書名である。

 

人は見た目が9割 (新潮新書)

人は見た目が9割 (新潮新書)

 

 

 月ノ美兎においてもだが、「見た目の良いアバター」の存在は想像以上に大きい。

 委員長にせよ、のじゃロリにせよ、中身がそのまま出てきた場合に今のような地位を築けただろうか? たとえ質のよいカメラやマイクを用意しても、素人は素人である。背景は自室である。「素人の風景」に対する視聴者の心理的フィルターは強力で、よほど巨大な爆薬でもない限り(あるいは筋金入りのスコッパー、ウォッチャーでもない限り)、それだけで視聴意欲を削ぐものである*3

 VTuberの最大のメリットは、「見た目は最初から良質」「背景は自由に定められる(=少なくとも汚いリアルな部屋ではない)」の2点を確約可能なところであり、つまり視覚情報の品質は高いレベルを保ちやすい*4

 それは裏を返せば、残酷なほど中身の純粋なおもしろさが顕になってしまうということであるが、それゆえに「おもしろい人間」がパイを握りやすいということでもある。そこに性差は存在しない。現実が世知辛いおじさんだろうと、美少女になってチヤホヤされる可能性がある。これは究極の実力勝負の顕現であり、それをなし得ているのが「見た目」というのは実に興味深い。

 

 そして最近では、ボイスチェンジャーおじさんが潮流に乗り始めている。代表格は魔王マグロナこと、マグロナちゃんである。

www.youtube.com

 おじさんは、声の面でも性差を乗り越えようとしつつある。無論、その逆も然り、だろう。バーチャルの世界が、究極のジェンダーレスな世界になる日も近い、かもしれない。

 

4, 殴り込んできた版権キャラ

 以上までとりあげたVTuberは、オリジナルのキャラクターか、在野の人間から生まれたキャラクターのような存在であり、いずれも版権的には一次創作に区分される(現実のおじさんを一次創作とか呼ぶのは奇妙だけども)。

 だが、VTuber界には、あらたな流れが押し寄せている。版権キャラたちの参入である。

 

 例えば、先日アニメ1クールを走破した『ウマ娘』のゴールドシップ。

www.youtube.com

 

 例えば、ハッカドール3号。

www.youtube.com

 

 例えば、『アイカツ!』の新キャラ・ナナ。

www.youtube.com

 

 そして例えば、KOFの麻宮アテナ。

www.famitsu.com

 

 おわかりだろうか。既存・新規問わず、マジモンの版権キャラがVTuberとして続々と参戦しているのである。

 ゴールドシップは、アニメと並走する一種のキャンペーンではあった。だが、ハッカドール3号、いわんや麻宮アテナは過去の版権キャラである*5。一切の時系列を無視して、かつての「あのキャラクター」がバーチャル界隈に参戦を告げる光景は、非常に衝撃的であった。

 なによりこれらがすさまじいのは、オリジナルのキャラクターと、キャラクターになりかけている一個人と、純度100%の版権キャラが、同じフィールドに立つということである。完全なるノンジャンルの戦場、格闘技なら力士も五輪選手もプロもアマも交えた無差別級タイトルマッチである。

 そのノンジャンル感にもだが、なにより虚実が混ざり合って一つの空間に共存し始めていることが、個人的にはとてもワクワクする。リアルな人間と、フィクションの存在が、まったく同じ地平で活動する。そういう空間が、いま一番勢いを得て実現しつつある……あまりこういうことを言うとあたまが悪く見えてしまうが、「新しいインターネット」が近づいているのである*6

 いま、VTuber界はスマブラになりつつあるのである。

 

5. スマブラ化するVTuber界に、自ら参戦できてしまうということ

 つい先日、スマブラ最新作『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』が、過去のファイター全参戦というビッグニュースとともに発表された。50だが60を超える、作品もヘタすれば会社も違うファイターたちが結集する光景は、まちがいなく祝祭であろう。

 いまのVTuber界は、このビッグニュースがほぼ毎日起きている状態である。つい先日も、ZIGという企業が「来年にかけて総計100人VTuberデビューさせる」というとんでもないプレスリリースをぶち立ててきた。一方で、にじさんじのイケメン部門が「運営からまるで支援されねえ」と言い残して失踪したり、ホロライブの一人がオタクから資金援助と恋人関係になることを求められたが振って機材代持ち逃げした、というニュースも入ったりして、光も闇もバランスよく見える光景となっている。まぎれもなく祝祭であり、ともすれば速度が早すぎる。

 このお祭り騒ぎの世界だが、外から見るだけでなく、実際に一人のVTuberとして内部から観測することができる。ヘタすれば48時間で。

 その好例が、マシーナリーとも子であろう。

barzam154.hatenablog.com

 かつてフォロワーだった男が、ある日突然VTuberに変身する。ある意味では「秘密を掘り下げる者」よりもホラーな光景だろう。

 だが、彼――もとい彼女は楽しそうに活動し、池袋晶葉SSRを引くなどして、いまや26本も動画を投稿している。当初そこまで長期展開を期待していなさそうだったのに、新キャラ・ジャストディフェンス澤村を登場させてしまうほどに長く続けているところに、この界隈の魅力があるように感じられる。

 

 あまたのファイターが集う戦場でありながら、自らファイターとしても名乗りを上げられる。そんな多様性、懐の広さがVTuber界にはある。無論、生き残りはものすごく厳しいいだろう。運営資金が枯渇して売りに出された例もある。

 パーティゲームに見えて、その実ハードなバトルフィールド。まさにリアルなスマブラともいえる文化が、現在進行系でインターネットで展開中である。

 

 ……とはいえ、あまりにも進み方が早すぎて、はたして来年にこの界隈が残っているのか、いささか不安ではあるけれども。

*1:バーチャルのじゃロリおじさん(ねこます)については後述。

*2:定義が流動的だが、「FaceRig、またはそれに類するアプリケーションによって、イラストとWebカメラに映る人物の表情を連動させたアバターを用いて、配信を行う者」とするべきか。

*3:憶測ではあるが、一時期量産された粗製Youtuberの存在がちらつくのではないか。少なくとも僕はちらつく。

*4:背景にせよ、最悪白背景にしてしまえば、余計なノイズは排除できる。

*5:いちおう、3号ちゃんはエイプリルフールのネタがきっかけという流れはあった。

*6:とはいえ、虚実ないまぜの空間としては、版権キャラクターがタイムラインに存在するTwitterなんかも近しいところに来てはいたが。