うらがみらいぶらり

チラシの裏のアーカイブ

『ゆるキャン△』全12話を観終えて、とてもよい映像化であったという気持ちを書き残しておきたい

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 焚き火の温もりが残っている。『ゆるキャン△』が全12話の放送を終え、数日が経った。

 とにかく感銘を受けることがとても多いアニメだった。心地よい空気に包まれた原作コミックスを、その魅力を漏らすことなく映像にしてみせた、とても恵まれたアニメ化。とりわけ最終話はCパートを筆頭にただただ絶賛したいほどだった。

 本作は、きらびやかな「きらら枠」であり、また土台がしっかりした「趣味モノ」である。そして、その2つのカテゴリーに甘んじることなく、細やかな交友関係や、本能にうったえかける食事、自然に対する情感を、妥協なく力を注いだ秀作だ。魅力を挙げるとキリがない。あんこがたっぷりつまったみのぶまんじゅうのようなアニメだ。

 そんなわけで先週木曜日から「ゆるキャン△……すばらしかった……」と感慨にふけっていて言語化できていなかったが、ようやく心も整頓がついてきたので、『ゆるキャン△』全12話を見終えた感想などと以下に記していく。

 

 ひとりでも。みんなでも。失敗しても。

 『ゆるキャン△』という作品で特に素晴らしいと思えるところは「いろいろな趣味のあり方を認める」という描き方だ。リンが好むソロキャンも、野クルメンバーが楽しむグルキャンも、どちらかが優れているといった物語にはしていない。「それぞれにちがった良さがある」というスタンスを貫いている。

 これ、趣味を描く物語としてはすごくステキというか、「趣味に生きるってこういうことなんだよなぁ」となにかハッとさせられたものがある。オタクゆえについついマウントを取りがちな生き方をしてきたが、「ちがった良さがある」と穏やかに笑っていられるようになりたいと、朝霧高原を眺めていると感じるのである。

 また、本作で描かれるキャンプには「失敗」がつきものなのも特徴的だった。ガスボンベを忘れる、食べたい肉が売ってない、行く予定だった温泉が潰れてる、温泉でうっかり寝過ごす、通行止めで時間をロスする……そんな予期せぬアクシデントが起きつつも、なんだかんだ丸め込んでいく。趣味には失敗がつきもの。そのあたりをきらら文法で隠さず、リアルながらもシリアスになりすぎず描かれていて、ただただ丁寧さを感じるところが多かった。

 『ゆるキャン△』の原作はキャンプという趣味の世界を相当丁寧に、大事に描こうとしているのが伝わる作品になっていて、そのスタンスを劣化させることなく映像化してみせたこのアニメは素直に感心している。いや本当に。原作も良いしアニメも良い。これは基本的なのになかなかお目にかかれない。

 

劇的ではない素晴らしい思い出

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 生の自然はただ目にするだけで心に揺さぶりをかける。これはアワレな内勤サラリマンになってからより実感したことである。劇的な出来事でなくとも、一面に広がる山や海は、それだけで記憶に焼き付く。

 このアニメは、全編を通してこの「自然の訴求力」を重視した描写が貫かれている。夜景や日の出に対し、「うわぁ~♡」と可愛げなリアクションを取ることはあまりなく、雄大なBGMと大写しの映像で魅せてくるのが本作の「自然の描写」である。

 劇中におけるキャンプは決して「劇的な出来事」ではない。多少のトラブルこそあれど、おおむね平和なキャンプの一幕である。だが、劇的ではないからといってつまらないわけではない。何気ない、平和な、ゆるーいキャンプも、思い出にしっかり刻まれるすばらしい光景なのである。キャンプ場ごとに専用劇伴を用意して描く彼女たちのキャンプは、アウトドアの魅力をぎゅっと濃縮した灯火である。

 というかねー、マジで山とか登りたくなるし、「キャンプ、してみっか?」とか思っちゃう。そんな引力が確実にある。そして、各地に出没しているという痛テント*1が、このアニメの効能の証左といえよう。

 

距離感をもって進展する関係性

 前回も記したことだが、『ゆるキャン△』における交友関係はものすごくナチュラルに描かれている。一にも二にもレズが火花を噴きがちなきらら系列において、レズが明確に一人も登場せず、極端にべったりな関係性も出てこないのは結構レアである。

 そのあたり、制作サイドも気を使ったようである。以下の監督インタビューを読まれたし。

 

www.excite.co.jp

 

 この「適切な距離感」というのがミソで、各キャラとも距離感を守りながら、次第に仲良くなっていくのがとても心地よい。わざとらしい「友達だね!」アピールも行わず、お互いのテリトリーを守りながら、関係を縮めていく。気がつくと呼び方が変わり、連絡帳の登録名も変わる。友人のでき方がやはり自然なのである。

 

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 謎多き女である斉藤も、気がつけばなでしこから「恵那ちゃん」と呼ばれている。こういったところが小気味良い。

 

そのバターのしみ込んだ豚まんを食わせてくれ

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 ホットサンドメーカーを使ってバターで焼いた豚まん with 淹れたてほうじ茶。あまりにも凶悪すぎる。手軽さが群を抜いているのがヤバい。書いている中で「そういやうちにもホットサンドメーカーあるな」と気づいてうわぁもうだめだ腹が減った。

 とにもかくにも食事の描写が「おいしそう」の一言に尽きるアニメでもあった。それは「寒空の下で食うあたたかい食い物」という組み合わせと、ただただうまそうに食うキャラクターの様子、それを演じる声優の妙技の為せる神秘である。

 そんな食事の演技について、「咀嚼音」という観点からアプローチを試みた研究論文を先日読んだ。文書の圧は紛れもなく怪文書だが、幅広い史料を集めて展開される論調は、白眉な研究成果といって過言ではない。

Seiyuu Has A Mouth, and Seiyuu Must Eat Screamingly.qazzaqxswwsx.wordpress.com

 花守ゆみりの「思いっきりほおばりながらしゃべる」演技、東山奈央の「本当にうまいものを食べた時に鼻の奥で声が響く」演技、このアニメは耳からも食欲を促す。映像だけで五感をフルに刺激するのだから、このアニメは間違いなく健康に良い。

 

最終話Cパートで号泣す

 朝霧高原のクリキャンという最後の見せ場を終えて、これからも彼女たちのキャンプが続くことを暗示させる日常の一幕を見せた後、第12話はエンドロールを迎える……はずだった。真のEDはスタッフロールの向こう側、Cパートにあった。

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 木々に花も咲き始める頃、本栖湖へ一人向かうなでしこ。自転車をこぐその姿は、まぎれもなく1話のリンの姿である。リンがたどった道を、丁寧に追うように駆けていく映像に、息を呑んだ。

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 設営シーンにも目を奪われる。彼女がこれまで手に入れたキャンプ用具だけでなく、カリブーで一目惚れしたガスランプも用意している。なでしこが、自分の手で選び、買いそろえたキャンプ道具をもって、自分のキャンプを設営している。もう彼女は、まぎれもないソロキャンガールになったのである。

 俺はアニメに触れた直後に原作は最新刊6巻まで手にし、そこまでの原作は把握している。だがこのようなシーンはまだ出てきていない。まぎれもないアニオリのシーンだったのだ。

 このオリジナルなCパート、なにが素晴らしいかって、全12話の総決算なんですよ。本栖湖見たさで勢いだけでやってきて迷子になっていた少女が、これまでの経験を発揮してテントを立て、8話で欲しがったランプを手に入れ、思い出の地である本栖湖にソロキャンに訪れる。単なるオリジナル展開ではなく、「『ゆるキャン△』という物語がいずれ行き着くであろうエピソード」として構築されている。各務原なでしこは、いずれ、必ず、ここにキャンプに来ると、自然と理解できるように組み上がっているのが、ただただすばらしすぎる。

 

 上記のカットだけで最高なんだけど、同じくしてリンも「私もソロ」とLINEを飛ばしてくる。そしてなでしこは「キャンプ場の当てっこしよ!」と提案。

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 そうしてなでしこは、富士山がきれいに見える本栖湖の写真をリンへ送る。そして、リンも写真付きで、一言だけメッセージを返す。

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 振り返ると彼女がいた。そうしてなでしこが「晴れてよかったね!」と駆け寄り、『ゆるキャン△』全12話は締めくくられるのである。

 

 言葉に表せない感慨が胸いっぱいに広がった。全12話の総決算でもあると同時に、1話からの延長線として、これ以上にないほど素晴らしい締めくくりだと思う。1話ではたしかに「富士山帽子かぶってら」だったんですよね。だからこそ「今日は見えるね」というアンサーが撃てる。美しすぎる。1話の斉藤とのやりとりも実はアニオリであることを踏まえると、なおさらこの演出のすさまじさが脳髄へ響く。

 そして、なでしこもリンも「ソロキャンとして」本栖湖に来ているのが絶妙で、つまるところ「ソロとソロが並んでテントを立ててもいい」ということ。ソロキャンもグルキャンもともに尊重する本作ならではの落とし所である。

 無論、初心者からソロキャンができるようになったなでしこと、ソロキャン少女だったが「誰かとキャンプすることも楽しい」ということも学んだリンの、それぞれの変化を一発で見せつけてくる、秀逸な場面でもある。とにかく、様々なレイヤーが重なり、まるでキルトのように編み上がっていて、正直、手放しで褒めたい。

 

 完成された原作を、魅力をそのままにうまく補填し、ブラッシュアップしていくアニメであることは序盤の時点で感じられたが、そうした積み重ねを最後に「いずれ行き着くまだないおはなし」として昇華せしめる手腕は、ただただ脱帽する他なかった。こんなにも素材をフル活用して完成させてくる原作付きアニメ、すげえ貴重だと思う。

 

まとめ

 きらら系に限らず、原作付きアニメはいろいろ見てきたし、「原作の魅力そのままだぜ」と感じる作品もいろいろ見かけてきた。だが『ゆるキャン△』は「原作の魅力」をさらに磨き上げ、補填をし、素材の味を最大限まで発揮していった。

 すでによい原作をさらによいものとして映像化することは容易ではない。このアニメは間違いなくそれができていた。その意味で、やはりとても恵まれた映像化だったといえよう。いやもう、本当によかった。

 あと、補填だけじゃなく再構築もすごい上手だった。原作と比べると細かにエピソードを組み替えたり、圧縮したりしてるんだけど、総じて映像化の最適化がバリバリに決まってると感じられた。

 全体的に、原作をちゃんと読んだ上で「これをしっかりアニメにしよう」という息遣いが随所に感じられて、毎週木曜23時半はとても幸福な時間だった。「犬山の乳」という特大の話題もぶちあがったし、今季一番楽しませてもらった一作となった。

 なお、本作終了後に「難民キャンプ」が物理的に発生する可能性に思い至り、それはそれで見てみたいとして、「もう野クルのみんなに会えない」と悲嘆することはない。アニメとして描かずとも、なでしこも、リンも、千明も、あおいも、恵那も、日本のどこかで元気にキャンプをしているのだ。それは他ならぬ最終話Cパートが示している。

 

 彼女たちは、今日もキャンプ場にいる。そう思わせてくれる、とてもゆるくて幸福なアニメだった。

 

 

Blu-rayは1巻4話収録ですってよ、奥さん

ゆるキャン△ 1 [Blu-ray]

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アニメのその後は5巻と6巻で

ゆるキャン△ (5) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)

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ゆるキャン△ (6) (まんがタイムKR フォワードコミックス)

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ゴキゲンな劇伴をつめこんだサントラもリリーズ済みだ

TVアニメ「ゆるキャン△」オリジナル・サウンドトラック

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*1:痛テント - Google 検索 まぁ以前からきっと存在したのだろうけど。