うらがみらいぶらり

チラシの裏のアーカイブ

「思考盗聴」という物語

 「思考盗聴」という言葉を聞いて、なにを連想するだろうか。僕の場合はSFである。

時は2030年。特殊なマイクロ波による思念通信技術が発達し、人々はより円滑なコミュニケーションを享受していた。一方で、思考を他人に傍受される「思考盗聴」が社会問題となりつつあった。思考盗聴によって生計を立てている思考ハッカーの少年・トウゴーは、ある日、ビルの屋上から落下してきた少女を救う。イルミナティと名乗る少女は、宗教団体Xから思考盗聴の被害を受け、苦しさのあまり自殺しようとしていたという。「私のココロ、守ってください…!」トウゴーはイルミナティを守ることができるのか。そして「思考盗聴」の真実とは――電磁波パンクアクション、開幕!

 こんな感じのラノベっぽいあらすじが思い浮かぶ。だが、どうも一部の人達曰く「思考盗聴」は実在するとのことである。

 

mkawa.jp

 

 曰く、それは「テクノロジー犯罪」とカテゴリされ、改造トランシーバーなどが放つ特殊なマイクロ波によって、人々の思考が読み取られたり、音声などを脳内に流されたりするらしい。コワイ!

 しかも「根本的な防御策はない」らしいが、コンクリートやミストサウナで遮断できるらしい。スゴイ! ちなみに集団ストーカーなる犯罪も関わっており、元凶は秘密結社イルミナティらしい。やっぱコワイ!

 他にも情報はないかと調べてみると、Googleではおよそ5〜6ページに渡り「思考盗聴被害を受けている!」「思考盗聴はSGIのしわざ!」「東芝が思考盗聴機を作っている!」「思考盗聴被害はこちらにご相談を!」などのサジェストが連続する。

 こんなにも被害報告がある。思考盗聴はあったんだ! この真実を人々に伝えなきゃ!!

 

 とまぁ、健常な人はさすがに気づくと思うが、これはモロに統合失調症の症状である。「思考伝播(考えが人に漏れてるという思い込み)」や「自生思考(勝手に考えが浮かんでくる)」といった症状が、この「思考盗聴」に該当するだろう。

 実際「思考盗聴」でググると、「思考盗聴 統合失調症」というサジェストされるので、世間的にはよくあることなのだろう……と見せかけて、「思考盗聴と統合失調症の見分け方」「警察や医者は統合失調症と決めつけます!だまされないで!」などと訴えるページが多い。地獄である。

 もしかすると本当にそんな技術がどこかで確立している可能性もあるかもしれないが、そんなハイテク技術を、ただの一般人に向けて何度も使うようなヒマな組織はそうないだろう。信者をタダ使いしても、そんなことに手間をかけたら献金も吹き飛ぶ。そもそも時の偉い人が今ごろ大変なことになっているだろう。

 

 正直、「電磁波攻撃」並にナンセンスな概念だし、かといって新規性にも乏しい。ラノベの企画書にもなるまい。今さら槍玉にあげて論じるほどのものでもない。

 今日、この話題になって驚いたのは、Googleですら「思考盗聴を肯定するページ」が上位に連続する状況だ。これはつまり、「私は思考盗聴の被害を受けている」と感じてインターネッツに救いを求めても、精神科への道が開かれないことを意味する。治療の可能性が大幅に低まる。それどころか、「相談」を謳うコールセンターや興信所にむしりとられる末路に行き着くかもしれない。

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp

 この興信所は50万円の報酬ゲッツに成功しているようだ。正直、思考盗聴専門興信所とか立ち上げてみたら儲かりそうだし、将来のキャリアプランに加えときたい。

 とはいえ、この検索状況は素直に胸糞が悪いのも正気な感想だ。

 

 精神疾患はしばしば自覚がないことが多いと聞く。「思考盗聴」が、自分の中で高度に醸成された物語であると気づかぬまま、非実在の陰謀を信じ込むケースは多いのかもしれない。

 これが現在だと、フィクションだと自覚できないうちにネットに書き込み、形になって残ってしまう。それをまた誰か「思考盗聴」を疑う精神を病んだ人が見て……という流れで、「思考盗聴」という物語はノンフィクションとして、一定の範囲に共有されてしまっているのだろう。

 いかな聡明な人でも、統合失調症を患えばトンチキなことを容易に信じる。実際、上掲のサイトの運営者は京大卒なのだとか。なので、最も大事なのは「そうしたことに惑わされない教養を得る」こと以上に、「思考盗聴されてる!」と訴えた時に「わかった!医者に診てもらおう!」と笑いながら連行してくれる、優しい友人の存在だろう。

 そして、うっかりこのブログに出会った「思考盗聴」を信じる人にも、同様に告げておこう。「とりあえず明日お医者さんとこに行きましょう」

 

 にしても5ページ以上にわたって肯定派がサジェストを占める状態は普通にヤバいと思うし、このクソブログでサジェスト上位に殴り込みたいものである。