うらがみらいぶらり

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『ラ・ラ・ランド』感想

 『ラ・ラ・ランド』を観てきた。なにやらアカデミー賞最多ノミネートだの、いろいろと鳴り物入りでロードショーされていたけど、本予告を映画館で観た時点ではめっちゃ面白そうだったし、気楽な気持ちで観に行ったんですよ。

 で、「100点満点で何点になるかな〜」と思って腰掛けていたら、開幕3分で10万点持って行かれてしまった。その後も10点増えたり、100点増えたりして、もうなにもかもどうでもよくなり、サントラを買った。そのぐらい、なんというか、すごい、すごい映画だった。

 とりあえず、小難しいことは置いといて、この映画すげーっていう気持ちを書き残しておく。本当にね、キラキラとして、すごくいい映画でした。

(※以下にはネタバレも含むので、未観賞の方は可能なら観賞後に読んでいただければ)

 

 ウキウキのミュージカル映画

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 もうね、のっけからこういうことしちゃうんです。OPだけで10万点。10万点です。

 ハイウェイの大渋滞。鳴り響くクラクションをよそに、一人ずつ車を降りて、歌い踊り出す。トラックの荷台からは陽気なサウンドを奏でるバンドが現れ、スケボやマウンテンバイクで飛び跳ねる。そして、散々踊った後にドーンッと表示される『LA LA LAND』のタイトル。つかみはバッチリとはこのことです。

 本作はいわゆるミュージカル映画なので、劇中、ふとした拍子に歌い始めたと思ったら、画面はあっという間にミュージカルの舞台へと変貌する。それはもう陽気そのものだったり、時にはしっとりとしていたりで、登場人物たちの感情がダイレクトに伝わってくる。

 この映画にある種のなつかしさを感じるのだとしたら、やはりこのミュージカル要素だとは思う。けれども、まるで古臭くなく、オシャレでノリノリ。色彩も鮮やかでとても楽しい。視覚と聴覚をフルに揺さぶってくる映像は素直に気持ちいい。それはもう、上映中なのに体が勝手にリズムを取ってしまうほどに。

 その時の登場人物の心情を「魅せる」上で、ミュージカルという手法は、古典的だけど最もインパクトが強い。その分、ある程度の「慣れ」は要するけれども、ハマった時の効果はやっぱり絶大だ。歌って踊る、という行為の力強さを、これでもかと見せつけてくれるのが、『ラ・ラ・ランド』の最大の魅力だと思う。

 

「夢を追う」ことのシビアさ

 ただひたすら歌い踊る映画、というわけではない。この映画には「夢を追うこと」というテーマが据えられている。それを、上述したように、ミュージカルでエモーショナルたっぷりに明るく描くこともあれば、時にリアルでシビアに描くこともある。その二面性(だけども、分断されてはいない)がこの映画のキモだと感じる。

 女優を夢見ているが、オーディションは落選続きのミア(演:エマ・ストーン)。ジャズを愛するピアニストだが、自信家でやや偏屈なセバスチャン(演:ライアン・ゴズリング)。

 この二人が、最初はハイウェイで中指を突き立てる最悪な出会いをするけども、共に「夢を追いかける」という共通項で意気投合し、やがて恋に落ちるのが、この映画のメインストーリーだ。二人が夢に恋い焦がれる様、そして異性として惹かれ合う様を、前半は歌って踊りながら、これでもかと明るく(ともすれば楽しすぎてバカになってしまいそうな勢いで!)見せ付けてくる。

 だけども、セバスチャンはミアと同棲するにあたり、「安定した収入」のために、音楽性の合わないジャズバンドに参加して、ツアーとして世界を回る日々を送り始める。不在の彼を待つ間、ミアは脚本を自分で作った一人芝居を開くが、客足も評価も散々で、泣きながら故郷へ戻ってしまう。単なる陽気なサクセスストーリーではなく、夢に対する「妥協」や「挫折」がちゃんと描かれるのだ。

 そして、ビビッドな色使いが目立つ前半に比して、後半の映像に占める色は抑えめで、ともすれば暗い。ゴキゲンなパーティドレスもまるで現れない後半は、「別の映画になったか!?」と思うほど、雰囲気がガラリと変わっていく。

 このあたり、ミアとセバスチャンがケンカをするシーンにも象徴されるのだけど、かなり生々しい感じで、ある意味では「夢から醒める瞬間」でもある。夢とともに陽気に歌い踊るだけでは生きていけない。ミュージカル的立ち回りとしてきた主演の二人が、真剣な演技に転じる姿も相まって、この落差は痛烈に響いてくるのだ。

 前半と後半の落差は明白だが、それは突然の落差ではなく、恐ろしいほど美しくシームレスに移行した結果というところが、観賞後「すげえ……」と感じたところだ。古典的な「夢追い人」の華やかさ、そして現代における「夢追い人」のシビアさを、これほど違うテイストで描き分けてくるのだから、正直舌を巻いた。

 

夢の先に待つビターな結末

 最終的にはミアは女優として大成し、セバスチャンも念願だったジャズクラブを開店する。しかし、この二人は結ばれることない。ミアは別の男性と子を設けており、完全に別の道へ進んでいるのだ。

 正直なところ、これには最初驚いた。大成したミアが、夫に連れられセバスチャンのジャズクラブに訪れ、最後は切なげな表情でお互いを見て去っていく。うわー切ねえ!切ねえなぁ!(貧しい語彙)

 しかし、夢を叶えることと、意中の人と添い遂げることは、まるで別物の道であることは、よくよく考えると当然のことだ。しかし、「映画」という媒体だとつい忘れがちになる。往々にして、夢と恋愛は不可分ものとして成就するのが、フィクションの定番だ。

 この件について、デイミアン・チャゼル監督は、次のように述べている。

皮肉にも、セバスチャンとミアが夢を実現させるためには、ふたりは別れなければならない。僕がとても感動したのは、人は人生において、自分を変えてくれて、なりたい人物になれる道筋を作ってくれる人と出会えるけど、最終的にはその道をひとりで歩まなければならないということだ。人は、残りの人生を決定づける人と結びつくことはできるが、その結びつきは残りの人生までは続かない。そのことは、ものすごく美しくて、切なくて、驚くべきことだと僕は気づいたんだ。この映画では、そのことを描きたかった。

(『ラ・ラ・ランド』公式パンフレットより)

 女優として世界を飛び回らないといけないミアと、ジャズクラブを構えて街に残り続けるべきセバスチャンでは、どう考えてもいずれ別れなければならない。夢を叶えるということは、ともすれば恋愛も捨てなければならないということ……そんな、「ロマンチック故のシビアさ」というか、監督インタビューの言葉を借りれば「切なくも美しい真理」が、深く突き刺さるラストシーンだった。

 そして、このラストシーンにて、セバスチャンはミアと初めて出会った時に弾いていた曲を弾き始める。その直後、最初に出会ったシーンの「if」をぶち込み、前半のような底抜けに明るいミュージカルと、「二人が観賞する映画」という二種類の体裁で、「もしミアとセバスチャンが結ばれたら?」という物語が描かれる。徹底して「フィクションのように」描かれる、ミアとセバスチャンが結ばれる結末(エロゲ的に言えば「トゥルーエンド」)は、「夢を叶える」上では二人の恋は諦めざるを得ない、というシビア過ぎる現実を突き付けるものだ(つまるところ、本作の終わり方は「ノーマルエンド」と言えるかもしれない)。

 この終わり方、純粋なエンタメとして本作を作るなら、少しビターすぎるとも言える。だけども、こんな「結末」は往々にしてあるものだ。なんというか、(これは個人的な感想でしかないんだけども)映画って、こういうものなのかもしれないなぁと。どこかほろ苦いけど、だけどもステキで、忘れられない結末。

 前半の陽気さからは想像できないこの結末は、「夢追い人が集まる街」たる「ラ・ラ・ランド(=言ってしまえばハリウッド)」の、ある意味ではもっともありきたりな現実なのかもしれない。そうしたことを考えさせられる本作の終わり方は、ものすごく印象に残る。それは、ただ単に「楽しかった」で終わるよりも、ずっと長く、深く残る思い出だ。

 

往年の映画に詳しい人にも、詳しくない人にも

 前半はただただ楽しく、後半はビターだけどもどこか忘れられない結末。そして、サントラを買って、ノリノリでリズムを取りながら、劇中のシーンを一つずつリフレインしていく。そんな経験ができている映画だ。個人的に、かなり楽しいし、思い出深い。

 ただ、個人的に悔いが残るとすれば、「このシーンにはオマージュがあるんだろうなぁ」と思われるシーンが多かったことだ。事実、パンフレットを開いてみれば、「ここはこの映画の〜」という記述がチラホラ見られ、どうしようもないクソじみたアニオタとして生きてきたこの身を恥じる次第である。

 逆に言えば、そんな身でも楽しめているという。元ネタがすぐに特定できる、往年の名作に明るい人ならば、さらに楽しめることだろう。ただ盛り込んだだけではなく、監督自身が生粋のミュージカル映画ファンとも聞く。ぜひとも元ネタを抑えたい!――そう思わされる、ウキウキの映画だった。まずは『シェルブールの雨傘』でしょうか……

 一つだけ伝えたいのは、(こんなこというと怒られるかもだけど)映画に詳しい人にも、詳しくない人にも、観て損はない映画だということだ。とにかく、底抜けの明るさと、それに隠されたシビアな現実のかみ合わせが、この上なく思い出に残る、とても楽しい作品なのだ。

 ……いや、そんな小難しい話は置いといても、とにかく楽しい。楽しい映画だった。物怖じせず、気楽な気持ちで観に行けばいいと思う。きっと元気になるし、ちょっとだけ、夢を追ってみたいなと思う、ステキな映画に出会えたことに、ただただ感謝だ。

 

 

 余談だけど、本作の公式パンフレットにコメントを載せていた井上芳雄、実は直前に観ていた劇場版SAOにゲスト出演していたという。なんだろう、なんの因果だろうねぇ……