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うらがみらいぶらり

チラシの裏のアーカイブ

けものフレンズでIQが溶ける6つの理由

 けものフレンズの輪が広がっている。

 ジャパリパーク開拓団第一陣として「考察班」が現地入りして久しい。正気の沙汰ではない叡智の集合知たちは、今日も失われた楽園の残滓を辿り、日々頭脳を回転させている。とりわけ4話は、カバンちゃんの出自ヒントも相まって、重要な資料として流通を開始していることだろう。

 

wasasula.hatenablog.com

 

 だが、ここ最近(特に昨日から今日)になって、純粋な「入植者」たちが急速に数を増やしている。その多くは、コツメカワウソのように「すごーい!」「たのしー!」とばかり復唱し、「◯◯のフレンズなんだね!」という構文のみで会話する、考察班とは別ベクトルで異様な集団である。

 まさに、知性を奪われた「フレンズ」たちの大繁殖期が到来していると言えよう。

 だが、けものフレンズはその実、「IQを溶かす」とも表現される視聴姿勢を大いに促すアニメである。ジャパリパークのガイドツアーは、東京ジャングルで荒んだ現代人たちが、安心して知性を放棄できるための心遣いであふれているのだ。

 このタイミングでけものフレンズに接する人も多いだろう。そんな人にも向けて、けものフレンズの「IQを溶かす要因」について記しておく。

 

①シンプルで明瞭なシナリオ

 けものフレンズのおはなしは極めてシンプルだ。「サーバルとカバンちゃんがジャパリパークを冒険する」。以上だ。

 それ以上でもそれ以下でもなく、恐ろしい陰謀や、登場人物たちの駆け引きも、一切存在しない。それは、最もシンプルな冒険譚のあり方であり、普遍的な物語の類型に近しいだろう。

 シンプルであるということは、手抜きという意味ではない。ジャパリパークの各所を訪れ、そこに住まうフレンズたちと交流し、ある問題を解決する。その流れは力づくではなく、フレンズたちの出自や事情に触れながら、最適な解決方法を提示するシナリオラインは、非常に鮮やかだ。

 シンプルでいて鮮やか。そうした物語は、本能的に人を安心させる。話を追う上でストレスを感じないからだ。だからこそ、視聴者は安心して知性を溶かすことができる。「すごーい!」とだけ反応すれば良い、優しい明瞭な物語が、ジャパリパークには広がっているのである。

 

②「専門用語」への低依存

 けものフレンズの親切な設計の一つに、作中固有の「専門用語」が少なく、また依存が少ないことが挙げられる。

 基本的に、作中固有の用語が多いほど、用語理解に頭を使うことになる。その際に使用される脳のリソースは相当多い。当然ながら、頭を使うアニメは安らぎには乏しくなる。

 けものフレンズには、専門用語といえるものはほとんど存在しない。「サンドスター」などは数少ない固有設定であるが、今のところアニメではそこまで関係せず、さらに「サンドスターからフレンズが生まれる」という事実だけがわかりやすく提示されているため、理解に割くリソースは少ない。

 こうした構図が、視聴者にとって非常に優しいものとして機能する。固有の用語に頼らずとも進むお話が、見るものに安心して知性の放棄を促すのである。

 

③裏表のない優しい登場人物

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 少なくとも4話までにおいて、ジャパリパークの住人は愛にあふれている。見ず知らずの異邦者に対し、臆することなく接触し、騙したり陥れたりすることなく、頼みに対して惜しみなく協力してくれる。

 けものフレンズにおいて、基本的に登場人物たちに裏表はほぼ存在しない。彼らはありのままを行動で示し、思うままを口にする。建前と世辞、嘘にまみれた現代社会の住人にとって、そんな人々――いや、フレンズのあり方はユートピアそのものである。

 シナリオと並んで、登場人物の言動とは、アニメにおいて大きなストレス要因になりやすい。その危険性を排除した、優しいフレンズたちの和気あいあいとした姿に、訪問者は一切の邪推を捨てることができる。「なんで俺はフレンズになれないんだ」と嘆く人もいるほどだ*1。「けものはいても のけものはいない」と謳う、優しい世界がIQを溶かす。

 

④脱力を促す画面

 フルCGアニメでありながら、けものフレンズは作画面ではむしろ優れているわけではない。輪郭線の怪しいモデリングと、それがものすごくゆったりと動き、ある時は静止画になってしまう「作画」は、本作に欠かせない「特色」の一つである。

 だが、これはよくよく考えれば、「画面情報を少なくする」という意味で効果的である。激しく動くアニメや、精緻な美術描写を有するアニメは、画面を見るだけで一定の体力を消耗する。視聴後どっぷり疲弊していては、どんな癒やしアニメも逆効果である。

 けものフレンズには、そういった杞憂が一切ない。ある種の脱力感すらもたらす画面は、「気張らなくていいよ。肩の力をゆっくり抜いてね」と、サーバルが優しく語りかけてくるような、そんな慈愛に満ちている。そして、慈愛に知性を奪われた人間は、幸福な表情を浮かべるものだ。

 

⑤あの日見た教育番組の想起

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 多くの人が気づいていることだが、けものフレンズには教育番組的な側面も存在する。アイキャッチに挟まれる「専門家に聞いてみた」コーナーは、実写な背景の異様さを噛みしめると同時に、ガチの専門家による動物講義が聞けるという、この作品の唯一無二の個性を放つ一幕だ。

 このコーナーのみならず、牧歌的で、人への思いやりに満ちた空気感は、NHK教育にて「がんこちゃん」と戦列を並べても不思議ではないシロモノだ。そんなアニメを見る者に連想させるのは、幼い日々、母といっしょに眺め楽しんでいた、「おかあさんといっしょ」の原風景である。

 視聴者に幼少期の思い出を想起させるアニメは稀有だ。いわば、見るだけで精神がタイムスリップするような、そんな危うい効能も抱えている。美少女に「バブみ」を感じるような生ぬるい話ではない。人はたしかに、ジャパリパークで園児に還るのである。

 

⑥汎用性の高いキーフレーズ

 現時点において、けものフレンズを視聴したフレンズから知性を奪う最大の要因が、これであると思われる。

 けものフレンズを象徴するフレーズ。それはコツメカワウソの「すごーい!」「たのしー!」といった、IQのとろけた感嘆のことばだろう。サーバルの「◯◯のフレンズなんだね!」という優しさに満ちた言葉も汎用性に長けているが、「すごーい!」「たのしー!」という言葉ほど、けものフレンズを「端的に表現する」言葉もないだろう。

 

「けものフレンズ、すごーい!たのしー!」

 

 このような発言は、けものフレンズをその歴史と共に延々と語るよりもずっと、「けものフレンズという作品とはなにか」ということを明瞭に提示している。

 「ゆるさ」「癒やし」「頭が溶ける」「無条件で楽しそう」……そういったイメージを、コツメカワウソのことばは最も的確に伝達する。ボスニア紛争において、セルビア人のイメージを貶めるために「民族浄化」というキャッチコピーが多用されたように。

「”民族浄化”というこの一つの言葉で、人々はボスニア・ヘルツェゴビナで何が起きていたかを理解することができるのです。『セルビア人がどこどこの村にやってきて、銃を突きつけ、三十分以内に家を出て行けとモスレム人に命令し、彼らをトラックに乗せて……』と延々説明するかわりに、一言 ”ethnic cleansing(民族浄化)”と言えば全部伝わるんですよ」

(高木徹『ドキュメント 戦争広告代理店 〜情報操作とボスニア紛争〜』(講談社文庫)より)

  さらに、「すごーい!」「たのしー!」は単純であるが故に、見た者・聞いた者が容易に再使用することができる。そして、「たのしー!」を見た者が、「すごーい!」と発声し、またそれを聞いた者が「たのしー!」と発声し……といった「ことばの自己増殖」が始まるのである。まさにちょうど今がこのフェーズだ。

 作品を象徴するフレーズが流行語となった時、作品の知名度と人気は、ウイルスのように一気に拡散していく。作品の魅力は、言葉で伝えられる。その言葉がIQの欠片も感じさせないものだったならば、「感染者」もまたIQが溶けることは自明である。

 

 

 以上の6つの要素が、けものフレンズの「IQを溶かす」最大の要因であろう。

 IQを溶かし、仲間を増やしながら作品を楽しむ姿勢は、ある意味「考察班」とは真逆のスタイルではある。だが、両者が争う必要はない。どちらもジャパリパークに住まうフレンズなのだ。間違いなく仲良くできるだろう。

 なにより、あの異様なビーストたる1話から、ここまで素直に楽しめる話が続いたこと、そして「考察班」と「IQ溶解フレンズ」が両方発生するような豊かな土壌になったこと自体が、まさに奇跡であろう。

 5話はまもなく放送される。さて、あなたはどんなフレンズだろうか。どうであっても構わない。けものフレンズは、ただ一つの言葉をもって出迎えてくれる。

 

 ジャパリパークへようこそ〜!」