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うらがみらいぶらり

チラシの裏のアーカイブ

「なろうグッドスタッフ」について

 ちょうど4日前、「小説家になろうの日間ランキングにヤバいやつが出てきた」というウワサを耳にした。

 あの魔窟はいつもヤバいだろうと思いつつ、もしかしたらという淡い期待からランキングを覗いてみると、あれまぁとんでもない逸品が顕現しているではありませんか。

 通称「孤児院」。またの名を誰が言ったか「なろうグッドスタッフ」。今朝、気がつけば週間1位の座についていた。そのタイトルは――さすがに以下を確認してほしい。長い。

 

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 「いつもの俺TUEEEEE異世界転生でしょ」と高をくくってはいけない。「限りなく極まった俺TUEEEEE異世界転生」である。特徴を以下にざっくり記すと、

  • 主人公は学校のクラスごと異世界転移したが、召喚した王国に「スキルが使えねえ」と呆れられ孤児院の経営を押し付けられるも、案の定チートスキル*1だった。
  • 傷だらけで今にも死にそうな獣人の少女の頭を撫でたら最高の治癒魔法でも治らなかった外傷と病気が治ってしまい即堕ち*2
  • 能力を聞きつけギルドにスカウトされるがなぜか「いや、孤児院あるんで(横柄)」と言い放ち、ギルド長がキレて10年来の部下を殴ってクビにする。主人公は「やれやれ」とつぶやく。
  • どこかの王国の最強の密偵軍団(物音を立てて侵入する)はもちろん返り討ち。追われていたエルフのお姫様即堕ち。
  • 殴りこんできた魔王軍を返り討ちにしたらなぜか「人間界と停戦を結ぶ手助けをしてほしい」と土下座で頼まれるが、条文をダメ出しして「なんでダメかは自分で考えな」と突き返す。主人公は「やれやれ」とつぶやく。
  • 絵本パズルめんこを作って収入源にしよう」という提案にベタぼれ幼女たちが「さすがです…!」と感嘆。主人公は「大したことじゃないさ」とつぶやく。
  • 脈絡なく押しかけてきた街一番の娼婦を転生してきたクラスメイト(嫌い)ごとボッコボコにする。
  • 自分をいじめていた聖剣使いのクラスメイトもけちょんけちょんになじる。主人公は「やれやれ」とつぶやく。
  • 少女たちの服を買いに入りちょっとだけ失礼を働いた店員に大金を突きつけ「客になんて言い草だおォン? 詫びはその程度かおォン?(意訳)」と恫喝する。
  • なぜか押しかけてきた獣人少女の元飼い主の部下を魔族に奴隷として引き渡す。「どうだこいつも怖くないだろう?」と獣人娘にアピール。獣人娘ポッ。

 ざっくりと記そうとしたのにこれだけの分量。ちなみに上記特徴は氷山の一角でしかない。

 「なろうグッドスタッフ」とは言い得て妙で、これまで世に放たれた「なろうのお作法」がこれでもかと濃縮還元された劇薬だ。耐性が無い者が読めば死に至る。耐性を持っていても満身創痍になる。

 

 とにもかくにも目に留まるのは「とんでもなく傲慢(でも口だけ謙虚)な主人公」だ。服屋の店員に金を突きつけて「おォン?(意訳)」と言ってのける姿は本当に圧巻だった。『アウトレイジ』のヤクザが礼儀正しく見えるレベルだ。そんな増長具合は、インターネッツでちょっと有名になって調子に乗る輩などを見ていると、ある意味リアルだ。

 主人公の持ち上げぶりも凄まじい。一挙一動に対し「すごい……」「さすが……」「そんなお考えが……」「ご主人様しか思いつかないわ……」などのチャントがこだまする。北朝鮮もかくやと思われる信仰ぶりである。その頻度は「さすおに」と勝負してもまず劣らない。

 主人公以外の登場人物はまぁ良い人かと言われれば怪しいレベルだが、彼らが「かわいそう」と思う程度には主人公が「やたら傲慢な態度を取りつつ口だけ謙遜」というピーキーなバランス調整が施されている。「そりゃお前いじめられてもしょうがないよ」とは言えるレベルだ。

 とはいえ本作特有の事象ではない。増長、傲慢、口だけ謙遜、モテる、パコる、殺人に躊躇いなし、でも舐めプ大好き、という主人公は、なろうではちょくちょく見かける。書籍化された『ありふれた職業で世界最強』も、精神破壊による結果とはいえ、各所で「はじめちゃん」と親しまれるくらいにはロックでワオワオな主人公だったりする。

 そんな主人公が暴れる物語が高い評価を得るのだから、やはりこの文化圏は特殊だ。ある意味では特異点であろう。

 

 「ありふれはなろうの闇、孤児院はなろうの狂気」という感想も耳にしたが、まさに一つの文化の最先端、もとい深淵である。

 重ねて言うが、「孤児院」は一読すれば「これが小説家になろうだ!」とたちまち理解できる、最凶のグッドスタッフである。

 ちなみに読んでいて苦痛かと思う人もいるだろう。けれどもこの作品、各話の短さとテンポの良さから、意外にストレスは少なめだ。ともすればギャグ作品に見える。

 というかもはや意図的すぎる構造に「禁呪詠唱みたいなシリアスギャグなのでは?」と疑うほどだが、各話の作者コメントは「評価ありがとうございます!執筆が捗ります!」の一点張りで、その真意をうかがい知ることはできない。

 百聞は一見にしかず。なろう文化に触れたことがない人は、ぜひ孤児院に物音を立てて踏み込むといい。たちまちボコボコにされて「これが異世界か」という理解を得られるだろう。

 もちろん、命の保証は一切ない。

 

余談

 傾向と対策を知るために、他のランクイン作品も眺めてみたが、グッドスタッフとはうって変わって素直に「よい」と思える一作もあった。個人的にオススメなので紹介したい。

 

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 転生者が出しゃばらないで現地人を育成するのが好きなのかもしれない。育成がてら出しゃばるものが多いからかもしれないが。

 ちなみにちょうど本日の日間ランキングの1位がこの作品だったりする。本当に入れ替わりが早い。

*1:「もちろんチートスキルだった」とあらすじで保証してくれている。

*2:「撫でポ」ならぬ「治癒ポ」と言われる現象らしい。