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うらがみらいぶらり

チラシの裏のアーカイブ

フライデーナイトにバイオレンスなスパイを 〜『キングスマン』所感〜

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 先日『キングスマン』を観に行き、大変に満足感を得られた。そして何も言わずに2周目へ突入し、さらなる満足感を得て帰ってきた。その内実をざっくり言い表すなら、

「うん、そうだ、これでいい」

 つまるところ感動というよりは納得で、純粋な娯楽として背伸びすることなく楽しめてた。いいんですよ、映画っていうのはこういうので。

 もちろん成長物語としての側面も上等だけれども、スーツを着たスパイが銃と秘密ガジェットでバッタバッタ敵をなぎ倒す爽快感は格別であり、とにかくその一点だけで「いいから観ようぜ」と言いたくなるわけです。以下、最高に娯楽なスパイアクションとしての『キングスマン』の雑感を書き記す。

 

 英国紳士が秘密ガジェットで大暴れ

 『スカイフォール』でQがペン型爆弾を「あぁいうのはもう古い」と言い切ったのは印象的なシーンだけど、そんなQが見たら卒倒の後脱糞しそうなスパイガジェットを惜しげもなく投入するのが本作の魅力だったりする。

  • 仕込み紳士傘(防弾仕様)
  • 防弾スーツ
  • 毒刃が飛び出る革靴
  • ARモニター内蔵メガネ(無線機付き)
  • 5万ボルトの電撃を放つ指輪
  • ライター型手榴弾
  • 麻酔針射出腕時計
  • 猛毒薬入り万年筆(遠隔起動装置付)

 とりあえずざっと挙げただけでもこのラインナップ。「お前はドラえもんか」とツッコみたくなる品揃えにMI6も苦笑い必至だろう。

 これらをギャグ調に用いず、アクションの要所でガンガンぶち込んで、しかもカッコよく見せるところに『キングスマン』の良さがある。

 もうね、全部活躍するんです。余すことなく。こんだけ小道具を用意すると半分くらい見せ場のないままエンディングを迎えたりするものなのだけど、全部に見せ場があるので全部記憶に刻まれる。これは地味にすごい。

 いかにもなスパイガジェットをメリハリつけてバンバカ投入してくる映画はもはや絶滅危惧種に近いし、それだけでも本作には絶大な価値がある。この楽しさは実際に見てみるとわかるので、なんなら公式のクリップムービーで空気感を味わってみるといいかもしれない。

www.youtube.com

 

メリハリのきいたバイオレンス

 とはいえ英国式スパイガジェットだけで全て片付くわけではなく、散りばめられたファイトシーンは銃撃戦あり格闘戦あり大乱闘ありのフルコースになっている。このファイトシーンが僕はたまらなく好きなのだけど、なにがいいかってメリハリがすごくきいているのである。

 上記クリップもそうだが、『キングスマン』は余韻を引っ張らない描写が多い。とりわけ戦闘描写は、無駄に演舞を見せつけたり、会話を挟んだりといったことはあまり行われない。「はい!はい!はい!」とでもいう小気味よいテンポとともに、軽快に敵をバッタバッタなぎ倒していく。このあたりはかなり気持ちいいところで、「キレッキレのスパイアクション」と評される所以はここにあるのではないかと思う。

 また、グロテスクではないがひたすらバイオレンスなのも持ち味だ。人体は縦に真っ二つに両断され、ビールグラスは頭部に直撃して粉微塵になり、カルトオバハンの頭は容赦なくヘッドショットされる。内蔵が見えたりするグロさはないが、容赦のない暴力が徹底されており、小気味良いテンポと相まって清涼剤として心に染み渡ることだろう。

 なにも考えずとも、スタイリッシュなバイオレンスをキレッキレのテンポで眺めていれば、それだけで心地良い。『キングスマン』は娯楽アクション映画として極化された姿を我々に見せてくれる。

 

成長と継承の物語として

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 思案不要のバイオレンススパイアクションとして秀逸な本作だが、「成長」「継承」を要に据えた物語もまた見どころの一つだ。

 貧民層に生まれて荒んでしまったエグシーが、英国紳士の具現であるハリーと出会い、「人間は生まれの貧富によって決まるわけではない」という教えのもと成長していくストーリーは、英国身分格差社会などの話題で絡めて各所で語られているだろうから、あらためてここで書くつもりはない。

 「成長」は本作の基軸の一つだが、個人的には「継承」の物語としても『キングスマン』は楽しめた。むしろ初見時は、こちらの側面の方が強く映った。

 エグシーはたしかに紳士として成長していくが、その理想像として据えられているのは、亡き父でも他のキングスマンでもなく、最初に出会った紳士たるハリーだろう。英国のジェントルとして、外面だけでなく内面からも教えを授かり続け、彼は着実にチンピラから脱却を始めている。

 そんな自身の目標だったハリーが、作中終盤で退場するわけですが、そこでエグシーは必要以上に落ち込まず、ヴァレンタインの野望を止めるべく自ら動き始める。その後、亡きハリーが仕立ててくれたオーダーメイドスーツを身に纏うけど、この時の姿がどことなくハリーに似ているんですよね。そしてそこからのエグシーの堂々とした姿を見ていると、「あんたみたいに裕福な生まれだったらな」とひがむチンピラの姿は消ええて、ハリーが抱いていた「真の紳士」というあり方がしっかり受け継がれているなぁとしみじみ思う*1

 センターを飾るコリン・ファースが途中退場する展開は、純粋な意外性として機能すると同時に、こうした「オールドからルーキーへの継承」というモチーフを生み出す要素にもなってくる。長くスパイ映画の座に居続ける007への当て付けかな、と思わず邪推してしまうけど、ベテランが最後まで出張るのとは異なる爽快感が感じられる物語であることはたしかだろう。

 

気楽に観に行ける最高の娯楽映画

 巷の感想には「マッドマックスと並んで今年最強の映画だ」というものをチラホラ見かけるが、同列かと言われると少し異なる気もする。怒りのデス・ロードが大自然の中で喰らう新鮮な生肉なら、『キングスマン』は都会の洗練されたジャンクフードである。どちらも美味には違いないけど、生肉とジャンクフードでは食の趣向が異なる。これを同じように語るのは少々危険だろう。

 実際、怒りのデス・ロードは鑑賞後に得も言われぬ高揚感に包まれ、言語は崩壊し、ひたすらにV8チャントを唱え続けるような、すさまじい熱気を持っている。

 一方の『キングスマン』は、ただただひたすらに「楽しかった」と思え、どこが正しかったかと言えば明晰な言葉で回答が可能な、そのくらいはっきりした娯楽性を持っている。気がする。

 とにかく「最高」というベクトルは『キングスマン』においてはそんな感じで、僕がこの場で言えるのは「スパイとバイオレンスが好きなら最高に楽しめる」ということだ。

 ついでに言うなら、この「楽しさ」は「気楽さ」に裏打ちされているところもあって、おそらく金曜夜に退勤してフラっと入った映画館で、ビール片手に笑いながら鑑賞すると最高な部類だと思う。ということでまだ見てない人はぜひ今週末にビール片手に映画館で『キングスマン』を見よう。絶対楽しい。

 

 ちなみに、マッドマックス爆音上映で有名になった、立川シネマシティにて爆音上映が絶賛上映中だったりする。相変わらず心地よい爆音で体が振動する。爆音上映で観れるものは爆音上映で観るべき、というのが僕の行き着いた結論だ。

*1:とはいえちゃっかり王女様とアナルセックスに興じてしまうあたりはお茶目なヤングメンだし、ある意味先人たる某ボンド氏にも通ずるところ。