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「最強への方程式-メソッド-」が生み出す特異点 ~『空戦魔導士候補生の教官』第1話 所感~

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 今年の冬、「四大」と呼ばれたラノベ原作アニメと、「魔王」と僕が勝手に読んでいた『ISUCA』というアニメが放映されていた。それぞれ甲乙つけがたい個性を持ち、多くのソムリエでにぎわったこの時期は、まさにグランドクロスとも言えるクールだった。

 それから半年後。じりじりとした夏の訪れとともに、それは蒼穹の彼方より飛来した。

 富士見ファンタジア文庫の新星、『空戦魔導士候補生の教官』の発進である。

 アニメ化発表時点で「ディオメディア新作」「禁呪詠唱の稲垣監督最新作」「主演:松岡禎丞」といった満貫確実の手札を持ちながら、7月に入ってヒロインのストリップ劇場じみた予約券置き場の写真が流れるや否や、飢えたソムリエの間で盛大な花火が打ち上げられた。さらに女帝・木戸衣吹の登板も明らかになると、スレやタイムラインのボルテージは夏祭りのごとき熱気に包まれた。

 そして先週木曜、鳴り物入りで出撃した本作は、大戦争の幕開けを予感させるものだった。

 率直に言えば、「これちょっとヤバくない? マジで比較先は魔法戦争じゃね?」というところである。

 本作のキャッチコピーである、「最強への方程式 -メソッド-」とはなにか。以下、満を持して現れた夏の特異点の第1話について、所感を記していく。

 

最強への方程式①:圧倒的トラディショナル感

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 かの冬に降臨した『ISUCA』の最たる特徴は、10年台とはにわかに信じがたい古臭さトラディショナル感である。退魔、妖魔といったレトロスペクティブな設定と、視聴者にやさしいターン制バトルは、90年台ラブコメの復活を幻視させてくれた。

 そして『空戦魔導士候補生の教官』も、至るところに古めかしさ懐かしさを散りばめている。

 原作イラストと比べて「なにがあったのか」と思わずにはいられないキャラデザは序の口。「主人公がパンをくわえて走ってきたヒロインと曲がり角でぶつかり、そのまま騎乗位になったヒロインの胸を主人公がラッキースケベする」という、90年台の足音が聞こえてくるようなシーンが本当に発生する。「裏切り菌」「えんがちょ」といった言語センスも、視聴者にタイムトラベルのような心地を与えてくれる。

 定型の遵守も徹底しており、「ヒロインとはラッキースケベが発生する」「ヒロインの『変態』コール連呼」「主人公は学校では除け者にされている(でもつよい)」などの、近年の流行を余すことなく踏み抜く。その姿勢からは「テンプレ以外の要素など邪道である」という覇気すら感じる。

 下手な新奇さには頼らず、ひたすらに伝統を重んじるあり方。これこそ1つ目の「最強への方程式 -メソッド-」である。

 

最強への方程式②:質素な作画

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 膨大な作画枚数や、独特な作画。これらは、作品に強い特徴付けを与える強力な要素だ。しかし『空戦魔導士候補生の教官』は、そんな「作画特化」ともいえる風潮に対し、高らかに警鐘を鳴らしている。

 本作の第1話「E601小隊」は、主人公のカナタ・エイジと仲間による、作中の敵・魔甲蟲の討伐シーンから始まる。主人公たちは空飛ぶ魔導士であり、その戦闘シーンはドッグファイトやクイックターンで彩られると思いがちだ。

 だが『空戦魔導士候補生の教官』における「空戦」に、余計な装飾は存在しない。魔導士はエフェクト無しにふわりふわりと浮き、空間をゆるりと滑るだけで敵を撃墜していく。心やすらぐ質素な映像こそ、本作の肝要である。

 魔甲蟲のCGも最低限の作り込みで抑えられており、爆発エフェクトは初期のPS2ゲームを思い出させてくれる。またOP映像は、カナタが画面をスクロールシューティングゲームのように動きながら魔甲蟲が撃破されるというものであり、その光景を目の当たりにした人からは「ビビオペHIPのようだ」という感想が漏れていた。

 かのKOTY2013の覇者とならぶ絵作りは、しかし我々に「絵に惑わされず中身を見る」という大切なことを思い出させてくれるだろう。2つ目の「最強への方程式 -メソッド-」は、我々に対し自省を促すものである。

 

 最強への方程式③:異様なBGM

 KOTYを幻視する空戦を経てサブタイトルが表示されると、前触れもなく謎の民族音楽調BGMが流れだす。「ララーライヤライラーラー」とかそんな感じで急に歌い始める。完全な不意打ちであり、空戦リアルタイム組は一気に魔境へと突入することとなった。

 その後も民族的なサウンドで攻めると思いきや、その後はARIAもかくやといわんばかりのヒーリングBGMで支配される。そして流れる場面は「曲がり角で食パン」のくだりだ。

 時は日付が変わって0:30。トラディショナルとヒーリングの相乗作用によって、視聴者の脳機能はたちまち停止していく。そしてそのままEDまで突入する。コミカルなBGMすら用いない、次元違いの演出といえよう。

 セオリー通りなら音で緩急をつけてもよさそうなものだが、思い…出してほしい。本作の監督は、あの『聖剣使いの禁呪詠唱』を手がけた稲垣隆行氏だ。その采配が並の一手で収まるはずもない。キルラキルっぽい「半年後」テロップをぶち込むような、氏の方程式が刻まれているのだ。

 3つ目の「最強への方程式 -メソッド-」は、まさに「稲垣マジック」と呼び得る、異様な音選びに詰まっている。カオス渦巻くBGMの禁呪を堪能しよう。

 

最強への方程式④:恵まれたEDと世界観解説予告

 「最強」の名を冠する『空戦魔導士候補生の教官』は最後まで抜かりない。4つ目の「最強への方程式」は、本編終了後に牙を剥く。

 時間旅行と瞑想を同時に行うような本編の後に待つED、これがなんとまぁ恐ろしいほど良い曲なのだ。手がけるアーティストはla la larksと呼ばれるグループ。その正体は、『東のエデン』や『C』『UN-GO』などでOP・EDを手がけた、School Food Punishmentの後継グループ*1である。のびやかで開放感満点のサウンドは、絶大なカタルシスとなってあなたの耳に響くことだろう。

 しかし、EDによる精神浄化もつかの間、主人公のカナタは予告パートで突如宣言する。

 

「これから毎回、教官としてこの世界の基礎知識を教えていくぜ」

 

 誰も頼んじゃいねえよそんなもん。いや教えてくれなきゃたしかにわからないけど、有無でなにが変わるっていうんだ。

 お節介がましいとも思うが、なにより「予告パートで世界観解説」という異様な一手に、初見であれば言葉を失うだろう。本編から解説時間をオミットするという戦略的側面も存在するが、心癒やすエンディングの直後に予測不能なトラップを仕掛けるというやり口は、まごうことなき「最強への方程式 -メソッド-」だ。

 

「最強への方程式 」から紡がれるモノ

 以上が、『空戦魔導士候補生の教官』に記された「最強への方程式」である。

 これらの方程式だけでも十分な脅威だが、本作にはあの「冬の四大」を彷彿とさせる要素すら内包されている。

  • 松岡禎丞と山本希望:『アブソリュート・デュオ』
  • 飛行を持つディオメディア*2:『銃皇無尽のファフニール』
  • 稲垣隆行監督作品:『聖剣使いの禁呪詠唱』
  • 赤髪ヒロインとラッキースケベ*3:『新妹魔王の契約者』

 グランドクロスを生み出した四天王の断片を組み合わせ、それを『ISUCA』とタメを張れるようなトラディショナル感で練り上げる。2015年冬が凝集して生み出されたような本作は、まさに「特異点」ともいうべき重力崩壊を引き起こす可能性を秘めている。

 では、特異点の行き着く先――「最強への方程式 -メソッド-」が導くものはなにか?

 語るまでもない。それは1年前に起きた、魔法使いによる大災害。

 『空戦魔導士候補生の教官』は、かの『魔法戦争』に比肩し得る逸材だ。

 終わったはずの戦争は、広大な空へと戦場を移し、1年半ぶりに復活の兆しを見せ始めているのである。

 

 とはいうものの、忘れてはいけないが、このアニメはまだ1話しか放送していない。うっかり2話から大化けし、第二のワルブレに至る可能性も十分にある。

 また、1巻を1話へ局所圧縮した狂気の具現たる『魔法戦争』に対し、『空戦魔導士候補生の教官』のコアは無と鎮静の渦であり、それぞれ微妙に性質が異なるものであることも、留意が必要だろう。

 いずれにせよ、本作が堂々たるフライトを迎えられたことは間違いない。グランドクロスの先に生まれし特異点は、我々を未知なる空へと導くことだろう。

 

 最後に、本作のキャッチコピーをあらためて引用したい。

 

 教えてやるよ――”最強”への方程式ってやつをな。」

*1:ボーカルとキーボードが該当者である。

*2:あなたは到達を持つのうコメでしかブロックできない。

*3:魔王と比較するとエロという面では凡夫以下とはいえ。