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うらがみらいぶらり

チラシの裏のアーカイブ

お前のMADを呼び起こせ 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』所感

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 暴力がこれほどまでに心地よいとは夢にも思わなかった。

 そして影響力も異常だ。映画館を出た直後は実感がなかったが、帰りの電車に揺られ、窓から車をぼんやり眺めていると疑問が湧いた。「どうして火を噴いていないんだ?」と。

 そう、ついに観てきました。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を。

 あまりにもインターネット上での熱が強すぎて「これはヤバイかもしれないぞ」と思い、各方面から推奨される立川爆音上映に足を運んだ。結論としては、まさにこの映画は暴力の権化であり、体に直接響く爆音と合わせることで、今世紀最大級のエンターテイメントになり得るシロモノだった。

 いいから観よう。怒りのデス・ロードへ漕ぎ出そう。

 この衝撃的な暴力体験はシェアしなければならない。そしてまだ暴力を受けていない人にV8の洗礼を受けるよう導かなければならない。一人でも多くMADに目覚められるように、以下にて最高の怒りのデス・ロード旅行記を記していく。

 

 

映画館について

 まずはじめに重要なのは、本作は観賞する映画館の選択だろう。

 初回は絶対に立川シネマシティの極上爆音上映に行くべきだ。これだけは確実に言える。

一部上映回で、音響家に調整を依頼し、今作にふさわしく大音量で上映します。
 高性能サブウーファーを新規導入、重低音をたっぷり増量し、爆発音や轟音などは音波で身体が震えるほどの「体感」を味わっていただけます。
 ただヴォリュームを上げるだけでなく、それでいてやかましくない、クリアな台詞と音楽を両立させるのが「極上爆音上映」です。*1

 気合の入れ方が明らかにおかしい。まず「新規導入」というところがすでに狂っている。

 ただの音量を上げた映画館と思うことなかれ。爆音上映では、車のエンジン音は本当に体を振動させる。物理で学んだ「音は空気の振動である」という知識を身をもって体験できる。それでいて鼓膜がマヒするかといえば、全くそんなことはない。震えるのは鼓膜ではなく体だ。体全体を使って聞くという稀有な体験がそこにはある。

 120分間ぶっ続けで「音の暴力」にさらされる極上爆音上映は、もはや映画観賞というよりアトラクションに近い。こんな体験は人生でそうそう味わえないだろう。4DXで文字通りのアトラクションを満喫するのも十分選択肢に入るが、それでも可能なら爆音上映に足を運ぶべきだろう。「とてもよい」を「最高」に引き上げる労力は惜しむべきではない。

 

MADなスペクタクル

 怒りのデス・ロードはとてもシンプルな映画だ。主人公・マックスが、女戦士・フュリオサとともに、巨悪たるイモータル・ジョーに立ち向かう。とりわけ複雑なシナリオにはしていない。シンプル・イズ・ベストな物語だ。

 だが、そんなシンプルな物語も、爆音とMADな世界観に彩られれば、たちまち異界へと様変わりする。

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 一面の砂漠。全身白塗りの男たち。ドクロの呼吸器をつけたイモータル・ジョー。「V8を讃えよ」というチャント。聖剣みたいに飾られた車のハンドル。母乳牧場。一面が鉄のトゲだらけの車。火を噴くギター……

 挙げていったらキリがない。本作を構成する要素はなにもかもが狂っている。

 これらイカれたパーツたちを、見ているだけでバカになりそうな爆発の嵐や、スタントほぼ無しでぴょんぴょん吹き飛ぶ人間といった光景がのりづけし、怒りのデス・ロードは最高にMADなスペクタクルとして建造される。

 しばしば「新感覚の〜」みたいなキャッチコピーがあるが、そんなお題目を掲げる作品の新奇な要素は1つ2つあれば十分ということもある。だが、本作はだいたい全てが未知であり、ぶっ飛んでおり、異界だ。数分おきに「ウッソォー!?」と叫びたくなるようなクレイジーさに満ち溢れているのだ。

 見るものを興奮と混乱に叩き込むワンダーランド。それが怒りのデス・ロードだ。

 

とてもマジメな物語

 上記のようなイカれたパーツで組み上げられた本作だが、その中核を貫く物語まで整合性ハチャメチャかといえばそうではない。むしろ、怒りのデス・ロードは極めてまっすぐで真面目な王道なのである。

 その根幹は主人公たちによる巨悪との対峙だ。そして、2000馬力の改造トレーラー・ウォータンクに乗る者たちには、自分たちの居場所を求めて奔走する物語も与えられている。女隊長・フュリオサにも、ウォーボーイズの一人・ニュークスにも、イモータル・ジョーの妻たちにも、「幸福になれる場所へ向かう」という目的が据えられており、砂とガソリンにまみれた途上で彼らは何度も協働するのだ。ロードムービーの王道である。その終着点を定めるのが、主人公たるマックスである。

 また、複雑なシナリオではないと上で述べたが、伏線は細かく拾い上げている。序盤で爆音とともにバラまかれたセリフや小道具が、終盤で思わぬ形で回収されており、話の作り方はかなり丁寧だ。

 外面をクレイジーさでフル武装しつつも、基盤はかなり堅実に構築されている。このギャップが非常に小気味良い。逆に言えば、基盤がしっかりしているからこそ、数々のイカれた世界観が光り輝くのである*2

 

MADだが薄っぺらじゃないヤツら

 キャラクターにも注目すべきだろう。本作の登場人物はそろいもそろってMADな身なりをしている。シタデルを「白塗り上裸の男たちを従えるドクロ型呼吸マスクを身につけた男」と端的に表現するだけで既に他の作品なら出落ちになり得る。だが怒りのデス・ロードでは全てが大真面目だ。「こういう世界なのだな」という納得感をもたらす空気で満ち溢れてる。

 そして、ウォータンクに乗り込む中心人物たちは、この世紀末ワールドにふさわしい外面こそ共通しているが、一要素で表現できない多面性を有している。

 

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 シャーリーズ・セロン演じるフュリオサは、主人公・マックスに対するヒロインの位置に収まることなく、「女主人公」と書いて「ヒロイン」と読ませるような、物語を牽引する存在としてマックスと並び立っている。ラブロマンスに突入せず、最後まで戦友としてあり続けるこのバトルヒロインの姿は、非常にたくましくも美しい。

 

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 また、ウォーボーイズの一員であるニュークスは、使い捨てのチンピラとして序盤に退場することなく、挫折と成長を経験するとんでもなく王道の*3サブキャラクターとして活躍する。序盤のヒャッハーなセリフにも伏線が張られている。ある意味、彼は第3の主人公と言えるだろう。

 

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 そして、主人公・マックスだが、作中では俺TUEEEEE的な、あらゆる出番をかっさらうような主人公としては描かれない。MADに侵された彼は時には悪役じみた振る舞いすら見せるが、ここぞという時にはしっかりフュリオサたちを導き、救うというヒーローとしての顔も見せてくれる。作品の顔でありながら、他のキャラクターを食うことのない姿勢は、主人公としてはむしろ貫禄すら感じるところだ。

 上記3人のメインパーソンは、全員個性をむき出しにしているが、決して食い合うようなことがない。ありあまった個性をむしろ相互に引き立たせようとする姿勢は、作中では「積極的に協力しあう」という描写に現れている。この3人、理解度がとんでもなく高いのか、窮地では素早く息のあった連携を見せてくれる。獣みたいなオッサンと丸刈りの女と白塗りの男が手を取り合う姿は、どこかシリアスな笑いももたらしてくれるだろう。

 端的に言って、どの登場人物もすごく魅力的だ。このMADな世界観において、とにかく人が魅力的に輝く点も、ギャップとして小気味良い。

 

お前のMADが目覚める

 以上までが、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のあらましである。

 総括するならば、「最高にクレイジーで最高にストレートな映画」なのである。複雑なシナリオ? ハラハラする謎? V8の前では綿埃も同然だ。爆音と爆発さえあればオールオッケーな大スペクタクルがそこにある。

 そして、本作のさらなる魅力の一つが驚異的な感染力だ。

 冒頭に立ち返ろう。映画館を後にした僕は、電車の窓から、公道を走る車を見た。この時、ひどく不思議だったのだ。「なんか火出てないんだけど」と。

 横断歩道を横切るバイクを見れば「飛び跳ねないのか」と不思議がり、「角川スニーカーから女騎士とキャンピングカーなラノベが発売!」というツイートを見かけても、脳内に映るのは丸刈りの女戦士と改造トレーラーだった。

 それらが異常であると気づくのにかなりの時間を要した。そして気づいてからも、「果たしておかしいのか?」という疑念を抱いた。

 怒りのデス・ロードは人間の認識をも改鋳するのだ。「そんなバカな」と思ったそこのあなた。今すぐ立川爆音上映に行ってみてください。きっと上映後には「ウオー!!殺す!殺す!V8!V8!」としか叫べなくなっているはずだ。

 衝撃は往々にして人を変える。爆音上映で放たれる怒りのデス・ロードは、この上ない暴力体験となって人々を変革させるのである。

 認識だけではない。爆音と爆発とその他諸々のスペクタクルは、全身の細胞を活性化させ、脳機能が飛躍的に向上する。その結果、怒りのデス・ロードのレビューでは、目を見張るような言説や語彙が飛び交う異空間となる。感想ツイートは宇宙との交信めいたカオスの断片となり、電波を受信した人々はいそいそとイラストやクソコラを生み出す。暴力体験の末に、人は高確率で発信者へとアセンションするのだ。

 

 なにが言いたいかというと、みんな、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を見に行こう。

 夏から始まるドラマ? アニメ? それより先にマッドマックスだ。大事な試験がある? マッドマックスを見てからの方が圧倒的に効率が上がるぞ。仕事でクタクタ? 爆音上映ならあっという間に疲労感を取り去っていくぞ。

 そして、この衝撃的暴力体験を経た後、活性化した脳機能をフル稼働させて、感想批評創作をどんどん発信しよう。怒りのデス・ロードは、あなたのMADを確実に呼び覚ます。そしてMADに従って発信を続ければ、やがて大きな共鳴となって、終わらないMADを楽しみ続けられるはずだ。

 

最高にMADな記事

 観劇前に目に入り、その異様な熱気に心奪われた記事が多い。こういうのを紹介したくなるくらい怒りのデス・ロードはすごい。みんなも観よう。

 

weekly.ascii.jp

 MADレベル200%。文章というが語彙がいろいろすごいことになっている。たしかに作中で隊列を組むモンスターマシンたちはエレクトリカルパレードだし、電飾かガソリンかくらいしか違いは見当たらないし、最高だ。

 

irorio.jp

 爆音一択だろうと思っていた心が揺らぐ揺らぐ。濡れても大丈夫な格好で足を運んでみたい。近場だとユナイテッド・シネマ豊洲あたりかなぁ。

 

ケアと癒やしの壮絶ノンストップアクション〜『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(ネタバレあり) - Commentarius Saevus

 ジェンダー的な側面から。暴力映画と見せかけて、こちらで語られる「男女の立場」についても印象的な場面がたしかに多かった。とりわけマックス、フュリオサ、ニュークスについては。

 

blog.hatenablog.com

 言われてみればこの三週間はラ!vs マ!な頂上決戦だった。マッドマックスだけでだいぶ十人十色なエントリーが集結しているあたり、インターネットはヤバい。怒りのデス・ロードはすごい。

*1:マッドマックス 怒りのデス・ロード

*2:「見た目は奇抜だが中身はド王道」という路線はガルパンを思い出す。あれも戦車が街中を走ってドリフトしていた点はよくよく考えるとマジでブッ飛んでる

*3:場合によっては主人公にすらなり得る